ある国では人が死ぬと、いったん「ンム」という存在になると言われている。そこで49日を過ごした後、すべてが消滅し、生ある者からは本当に届かない世界に行ってしまうと言われている。
ンムは魂そのものと言っていい。ンムに肉体はなく煙のように透き通った存在だが、人が見て知覚することはできる。その姿はンムによって千差万別だが、共通しているのはどれも苦悶の表情を浮かべているということだ。絶望の色。
どんなンムも直視できない苦しげな表情をしているので、人々は自然と、ンムになるととんでもない痛みや責め苦を味わうことになるのだろう、と思うようになった。死ぬ、とはそういうことなのだ、と。
そして、ンム=死 を恐れた人々は、人を殺すことを禁忌とし、どんな状況でも命を長らえることをのぞむようになった。ンムの正体や実際は何を感じているのかについてはわからないまま、その苦悶の表情だけを見て心底恐れるようになったのだ。