発見する器

日常の考察、真実の追求、感性にピンと来たもの、好きな音楽。

空港

 「空港っていかした名前だよね…。だって空の港だぜ。考えた奴はとてもクールだ…」と惚けた顔で呟いたのはジョニーK。生粋の日本人である。鳥取県出身だ。今日も全身をユニクロで固めている。丈がわずかに短いと思われる濃いインディゴジーンズからは、アンマッチな白いソックスが覗いていた。ジョニーKというのは彼のペンネームであり、ラジオ番組の投稿に使っているらしい。
 彼の隣には、シャイニングWEZが座っている。180cm以上ある巨漢ではあるが、締まりのない身体をしており、たるんだ腹にまず目が行く。丸刈り頭に度の強い近視用メガネを装着。短い手足を揺らし、落ち着きのない様子でジョニーKの話に耳を傾けている。
 シャイニングWEZはお世辞にも要領が良いとは言えない。子どものころ、両親から祖父母、親戚、友人、クラスメートに至るまで「うすのろ」と罵られることは少なくなかったし、学校の先生からは半ば無視されていた。高校一年の冬までテストは0点しかとったことがなく、部活は入部して三日で辞めることを四回も繰り返した。恋愛経験も遅く、17歳でようやく初恋というものを経験したが、勇気を振り絞った告白は敢えなく玉砕、そのときでさえ、好きな女の子から「うすのろ」と罵られる始末。上京してFランク大学に入ってみたところで機転が利くようになるわけでもなく、自然と中退、ニートと化した彼は、毎日ネットの匿名掲示板や不特定多数のブログのコメント欄に「うすのろ」と書き込む生活を五年も送った。シャイニングWEZというのはその頃に頻繁に使っていたハンドルネームである。
 そんな彼でも、社会人となった今は、外資系経営コンサルティング会社で事業部のリーダーとして13人もの優秀な部下(日本人、アメリカ人、インド人、フランス人、南アフリカ人、韓国人、グルジア人、グアテマラ人などから成る)を抱えているのだから、人生というものは案外ちょろいと言えるのかもしれない。
 ジョニーKが前を向いた振りをしながら、隣に座っている男が自分の発言に何か反応しないか目の端で窺っている。シャイニングWEZはそれに気づいたが、面倒くさかったので話を濁すことにした。「ねぇ、そんなことより、朝マック食べに行かない?」そう、今は午前九時十分。朝ご飯を食べるには少し遅くなりかねないタイミングである。つまり、シャイニングWEZの提案には説得力があった。ジョニーKは同意せざるを得なかった。